一年間のノックスビル滞在中,とても仲良くして下さったある日本人家族.その奥様は音大でピアノを専攻され,日本では受験生も含めて後進の指導をなさっていた方でした.私の娘は,この奥様が大好きで,いつかピアノをやりたい,と言っていたのです.
帰国,入学,荷物であふれる自宅・・・色んなことがあって何となくのびのびになり,気がつけば2年生目前.ちょっと遅きに失した感がないでもないですが,ようやくピアノを習い始めたのです.
さて,それで,楽器です.泥縄式ですが,習い始めてから買います(笑)
電子ピアノと生のグランドピアノが,コンサート会場に持って行ったとき,全く違うものである事は,身をもって承知しています.ですが,限られた予算や設置環境の制約の中で安いアップライトを買うのか,と考えると,電子ピアノも捨てたものではないと思えます.
その昔,家のアップライトピアノで練習しながら思っていたのは,音楽は楽しいけれど,ピアノの音は嫌い,ということ.叩けばピンとなるだけの,つまらない楽器だと思っていました.これが根本的に間違っていることが分かったのは,止めてしまってからだいぶ後.大学オケの友人が弾くシューマン「子供の情景 - 見知らぬ国と人々について」を聴いた時でした.優しくゆれる分散和音の上でふわふわとスキップするメロディー.晴れた日にすっと雲の陰が通り抜けて行くみたいに,ちょっと陰ったり明るくなったり.なんだ?これがピアノ?なんでこんな表情豊かなの?と...
その後,帰省して初めて理解したのは,実家のピアノが,残念ながら表情と音色に乏しい楽器であったということ.具体的には,押し始めが重いのに一旦動き出すとスコンと底まで行ってしまうキーが問題でした.弱く打鍵したいときにコントロールができない.誤解を恐れずに言えば「mfより弱い表情の無い世界」でした.
もしかすると,初心者向けに安定志向にしてあるのかもしれない.もしかすると楽器の個性に相応しい奏法を知らなかっただけかもしれない.でも,いずれにしろ,音楽好きのいち小学生は「ピアノはツマらない楽器だ」と誤解してしまった訳です.
そんな訳で,半端なピアノより電子ピアノの方が良いかもしれない,という発想.ググってみると色んな意見が出てきます.「電子ピアノはサンプリング音だから音色の変化が出せない」「どんな高価な電子ピアノより10万円の生ピアノのほうがマシ」「電子ピアノでも鍵盤の作りで表情の幅が広がる」「音色に限れば,安いアップライトより電子ピアノの方が良い」「アンサンブルできるのは電子ピアノだけ」・・・いずれも,弾く人や目的,求めるレベルなどにより,様々.きっとどれも正しい意見.場合により,当てはまったり,当てはまらなかったり,ということなのでしょう.では,私なりに整理するとどうなるでしょう?
1)表現の幅(入力)
”タッチ”とひと言で表現されますね.実家のピアノはここが難点でした.キーの駆動メカニズムは電子ピアノのメーカー各社がしのぎを削る所.ハンマーで打弦する必要が無い訳ですから,設計の自由度は高く,また目指す所はグランドピアノのタッチ.もしかすると安いアップライトより電子ピアノが上回る可能性があると思われる点です.
実家のピアノの経験から,素人の私でも判る範囲が有るはずと考えます.チェックすべきは「コントローラブルなアナログ入力が出来そうか」ということ.「グランドピアノに近いかどうか」という点については,あまり拘らず詳しい人の意見を参考にします.
2)表現の幅(出力)
ここが電子ピアノの要注意点.長い弦を直接叩いて振動させ,大きな共鳴箱を鳴らすピアノと,予め決められた何段階かの音色でスピーカーから再生する電子ピアノ.同列に有る「差」ではなく根本的に異なる「相違」.裏を返せば人工的な音作りの中でも設計者の腕の見せ所であり,メーカーの思想や機種の位置づけによって個性が出る所と考えられます.チェックすべきは「好きになれる音色か」「強弱で音の表情がどう変わるか」「広がり,奥行きがどの程度か」.値段を睨みつつ,妥協出来るのか,出来ないのか,という少々消極的な判断をすることになりそうです.
3)音楽の楽しさ
ピアノの性能の本質では有りませんが音楽の本質かもしれないアンサンブル.もちろん生身の奏者同士のアンサンブルに勝るものはありませんが,いくつかの電子ピアノにある伴奏機能はアンサンブルの楽しさを疑似体験出来るものかもしれません.とくに初心者,初級者のうちに,その楽しさを味わうことが出来れば,それはとても嬉しいことのように思えます.ただし,多くの場合,その「疑似体験」機能のために大幅なコストアップとなるのも確か.機能を確認し,音を確認し,コストアップ分に見合うものかどうか,を考えることとなります.
<つづく>
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